当ブログ「ビブリオテカ・グラフィカ」は、本の挿絵や装丁等について書いた短文を保管するアーカイブとして出発したのだが、最近はバイクと食べものの記事ばかりで、すっかり本義から離れてしまった。ときどきは本のことも思い出さなくては・・・。というわけで今回は、京都精華大学の企画展「蔵書票グラフィティ」のために書いた文章を補足する。
本来は自分の蔵書に貼るための蔵書票が、あらかじめ本に貼られ、あるいは刷り込まれ、ブックデザインの一部として出版された本について、これまで数回にわたり、日本の作例を紹介してきた。こうした事例は、蔵書票の役割が充分に知られていなかった日本の特殊事情と考えていたが、実は蔵書票発祥の地である西洋にも、同じような作例がある。
一ヶ月ほどまえに神保町を歩いていて、馴染みの古書店主から「こんなのが入りましたよ」と、マネが挿絵を添えたマラルメの詩集『牧神の午後』(1876年)を見せられた。つい先ごろ、店頭の買取で仕入れたものだという。かくも貴重にして高価なる挿絵本(一冊百万は下りませんな)を、散歩がてら買取に持ち込む客がいるのだから、神保町というところはあなどれない。
で、さっそくこの薄い冊子(本文12ページ。なにしろ詩が一編しか収まっていない)を手にとり、ページを開いて驚いたのは、巻頭にマネが描いた蔵書票が貼られていたこと。朱色で「EXLIBRIS」とあり、蔵書票であることに間違いない。本冊とは別刷りの小振りな蔵書票だ。マネが票主なのではなく、マネがこの本のために描いた蔵書票が、限定195部のすべてに貼りこまれているのである。(蔵書票の右下に、各冊の限定番号が手描きされている)
帰宅していろいろと書誌をあたってみると、どうやらこの前年1875年に出版されたポーの『大鴉』(マラルメ仏訳、マネ挿絵)にも、マネが描いた蔵書票が添えられているようだ(実物未見)。そもそも『大鴉』にしろ『牧神の午後』にしろ、出版当初、これらの本を買って総革に仕立てた愛書家はまずいない。当時の豪華本の美学から、かけ離れていたからである。挿絵本のスタイルからいうと、だいたい四半世紀ほど先んじているように思われる。マネとマラルメの本造りの、なんと斬新なことか。文学と美術で革新的であったのと同様、この二人は本造りにおいても旧弊にとらわれない。おそらく、彼らのそうした前衛的な試みのなかで、蔵書票を使ったブックデザインが発案されたのだろう。
もう少し調べてみるつもりだが、以上、貴重な作例として報告する次第である。
補記:『大鴉』の蔵書票について、ネット上で画像が見つかったので添付しておく(上図)。少々見づらいが、上方に「ex libris」と印刷されている。本冊は未綴じの状態で刊行され、この蔵書票も、他の挿絵と同様、独立した一枚である。